Q.エンハーツの開発の経緯について教えてください。

A.

乳癌患者の約20%で認められるヒト上皮細胞増殖因子受容体2(human epidermal growth factor receptor2:HER2)の過剰発現は、予後の低下や高い再発率に関連することが知られています。HER2をターゲットとした既存の治療薬により、乳癌患者の無増悪生存期間や全生存期間は改善されていますが、再発した場合にはそれらの薬剤に対して抵抗性や耐性を獲得していることも多く、乳癌は未だ重篤かつ命にかかわる疾患です。HER2陽性の手術不能又は再発乳癌治療の現状として、標準的な治療後に増悪した場合には、抗腫瘍効果を期待できる明確な治療レジメンが存在せず、高い臨床的有効性を示す新たな治療法に対するアンメットニーズが依然存在しています。
また、HER2は胃癌患者の約10〜16%に過剰発現や遺伝子増幅が認められることが報告されており、腫瘍増殖の一因であるため重要な治療標的の1つとされています。しかし、HER2陽性胃癌患者におけるHER2発現には、転移臓器間及び腫瘍内での不均一性が認められています。また、HER2陽性胃癌患者で抗HER2治療後にHER2発現の低下が起こる割合は約30〜60%であると報告されています。HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌に対して、一次治療が無効となった後に、二次治療以降のHER2特異的な治療選択肢が存在せず、高いアンメットニーズが存在します。
エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え))は、第一三共株式会社において創製された、HER2を標的とした新規の抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)です。ADCの概念は1900年代初期から提唱されており、抗体に薬物を結合させて、モノクローナル抗体の特異性により抗原を発現した腫瘍細胞に対して選択的に、強力な殺細胞活性を有する薬物を送達し、全身への毒性の影響を抑えながらその効果を最大化することを目的にしています。ADCの技術開発においては、薬物の活性や種類、抗体あたりの薬物結合数、薬物リンカーの安定性、薬物結合数の不均一性等の課題が挙げられており、これらを克服するような新規の薬物リンカーシステムが求められていました。
そこで、第一三共株式会社は、上記の課題克服を目指して研究を重ね、トラスツズマブ(遺伝子組換え)とアミノ酸配列が同一のモノクローナル抗体である抗HER2抗体に、DNAトポイソメラーゼⅠ阻害活性を有するカンプトテシンの新規誘導体(MAAA-1181a)を、切断可能なペプチド含有リンカーを介して結合させたADCであるエンハーツを創製しました。エンハーツの薬物抗体比(drug-to-antibody ratio:DAR)は約8です。また、MAAA-1181aは膜透過性を有し、HER2非発現の隣接腫瘍細胞に対しても細胞傷害を引き起こします。
エンハーツは、進行性の固形癌患者を対象とした日米国際共同第Ⅰ相試験であるJ101試験及びトラスツズマブ エムタンシン(遺伝子組換え)(T-DM1)治療歴のあるHER2陽性切除不能又は転移性乳癌患者を対象とした国際共同第Ⅱ相試験であるU201試験(DESTINY-Breast01)において臨床的有用性が示されました。本試験を主要な試験成績として、本邦では2020年3月に「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」を効能又は効果として、製造販売承認を取得しました。
また、エンハーツは、進行性の固形癌患者を対象とした日米国際共同第Ⅰ相試験であるJ101試験及びトラスツズマブを含む2レジメン以上の治療で増悪が認められたHER2陽性の進行性胃腺癌又は胃食道接合部腺癌を対象とした日韓国際共同第Ⅱ相試験であるJ202試験(DESTINY-Gastric01)において臨床的有用性が示されました。
本試験を主要な試験成績として、本邦では2020年9月に「がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌」の効能又は効果の追加が承認されました。

引用文献:
エンハーツ 総合製品情報概要

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